テアトロ・ド・ペラの憂鬱








幾つかの監視カメラを掻い潜って、静かに殺して、静かに去ることのできる、難易度の低い「お仕事」。

手に馴染むベレッタを握り締め、頭の中で張り巡らせた時間通りに初老の男の脳天をぶち抜いた。

どろどろの血液と脳漿が、アンティークの壁掛け時計を汚す。

そのまま男の書斎を出て、左に出て次の階段を降りて裏庭に。

そのまま屋敷の裏に待機しているピピのコルベットに乗り込めば完了。


―――の、筈だった。






「…、」

部屋を出ようとして振り向いた先、扉の奥に影が見えた。

顔面を蒼白にし、かたかたと震えている老婆。

彼女は白色のふわふわと柔らかい髪を持っていて、パッチワークの愛らしい花柄のワンピースを着ていたおばあちゃんだった。

アコの足下には血を流したこの屋敷の主――彼女の雇用主。

いつもなら躊躇いもなく撃つ癖に、その時アコはベレッタを構えることしかできなかった。





「ばかだよねぇ…」


あの柔らかな白い髪が、目尻に寄った深い皺が、澄んだスカイブルーの窪んだ瞳が。

それが、まるで。






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