テアトロ・ド・ペラの憂鬱








「…ヘルパーのおばあちゃんが、「グランマ」に見えたのよ。外見は全然、似てなかったのに」

ゆっくりとアコが俯く。

長い髪が顔の横に流れて、影が一層深くなった。

ただでさえ力が入っていた指に更に力が籠り、ぎり、と音がしそうなほど二の腕の柔らかな肉に食い込む。

それを見たカーラが、不愉快そうに片眉を上げた。


「…それで、」

静かに促せば、アコは眼だけをカーラに向けた。
不機嫌を隠そうともせず、ボスに向かって随分と挑発的である。


「殺したよ」

吐き棄てるように、アコはそう言った。

じわじわと涙は沸き上がるが、しかし決して流そうとはせず、白眼部分はレプロット(若ウサギ)のように赤くなっていた。



「…グランマを殺した気分にでもなったか?」

遠慮もへったくれもないカーラの物言いに、アコはカッとなった。

脳内が沸騰し、思わず尻に隠していたナイフを手にとる。

しかしその冷徹な冷たさに指を掛けた瞬間、水を被ったかのように身体が冷たくなった―――。




「頭、冷えたかよ」


否、実際に水を掛けられたのだ。









< 31 / 80 >

この作品をシェア

pagetop