テアトロ・ド・ペラの憂鬱
「…ヘルパーのおばあちゃんが、「グランマ」に見えたのよ。外見は全然、似てなかったのに」
ゆっくりとアコが俯く。
長い髪が顔の横に流れて、影が一層深くなった。
ただでさえ力が入っていた指に更に力が籠り、ぎり、と音がしそうなほど二の腕の柔らかな肉に食い込む。
それを見たカーラが、不愉快そうに片眉を上げた。
「…それで、」
静かに促せば、アコは眼だけをカーラに向けた。
不機嫌を隠そうともせず、ボスに向かって随分と挑発的である。
「殺したよ」
吐き棄てるように、アコはそう言った。
じわじわと涙は沸き上がるが、しかし決して流そうとはせず、白眼部分はレプロット(若ウサギ)のように赤くなっていた。
「…グランマを殺した気分にでもなったか?」
遠慮もへったくれもないカーラの物言いに、アコはカッとなった。
脳内が沸騰し、思わず尻に隠していたナイフを手にとる。
しかしその冷徹な冷たさに指を掛けた瞬間、水を被ったかのように身体が冷たくなった―――。
「頭、冷えたかよ」
否、実際に水を掛けられたのだ。