テアトロ・ド・ペラの憂鬱
「…アコ、なんで濡れているの?」
今日も鮮やかな緑頭のセッタが階段を上がってきた。
鍛えられた体型にぴったりとくっつく光沢のあるグレーのシャツを着て、不思議そうに首を傾げる。
それに伴い、いい香りが階下から上がってきて、その場に居た全員の鼻を擽った。
「なんでもねぇよ。セッタ、お前も混ざるか?」
ピピが言う。
どうやら「一緒にお風呂」は自然と受理されたらしい。
「…俺はいいや。―――アコ」
セッタがアコの顔を優しく持ち上げる。
「セッタ、いいにおいがする」
アコの濡れた唇にセッタはやはり優しく口付けて、控え目だが、穏やかに笑って見せた。
「トマトのブルスケッタを作ったよ。もう少ししたらモッツァレラのピッツァも」
それはアコの大好物で、大切な味だった。
セッタには話したことがないからただの偶然だろうが、今は偶然には思えない。
アコは笑って、セッタの首に手を回してその額にキスをした。
そして代わる代わるガフィアーノ、ボウラー、カーラがアコの額、頬、鼻の頭にキス。
今回は、唇へのキスはピピに譲ってやることにしたらしい。
「アコ、今夜は俺の部屋で寝ろよ」
[テアトロ・ド・ペラのバッカンテ]・終