テアトロ・ド・ペラの憂鬱
「私と一発ヤりたいってんなら、島一個プレゼントして頂戴。…ま、あんたの粗末そうだから乗り気はしないけど」
そうして果てしなく下品なファータは、鼻歌を歌いながら去ってしまった。
視線の先にはこの辺りじゃ有名なアパルト、「テアトロ・ド・ペラ」。
「あっ!アーコ!」
するとアパルトから金髪のマッシュルームが出てきて、ファータに手を振りながら駆けてきた。
ゆるゆるのシャツをだらしなくきて、大きめの麻のボトムスをサスペンダーで止めている。
「ボウラー!ただいま!」
ふたりはまるでドラマのように抱き合って、キスをして再会を喜んだ。
それを僕は、呆然と見つめるしかない。
「それにしてもいつもいつもアコの七変化には驚くぜ。別人だもんな!」
ファータ…否、アコの肩を抱きながら、金髪のマッシュルームははははっと笑う。
―――そう、『アコ』。
あの「テアトロ・ド・ペラ」に住む唯一の女性で、ヒステリックな悲鳴や怒鳴り声を上げてしかも乱暴で、たまに霰もない矯声を通りに響かせているあの、そばかす顔の、「アコ」。