テアトロ・ド・ペラの憂鬱







「私と一発ヤりたいってんなら、島一個プレゼントして頂戴。…ま、あんたの粗末そうだから乗り気はしないけど」

そうして果てしなく下品なファータは、鼻歌を歌いながら去ってしまった。

視線の先にはこの辺りじゃ有名なアパルト、「テアトロ・ド・ペラ」。




「あっ!アーコ!」

するとアパルトから金髪のマッシュルームが出てきて、ファータに手を振りながら駆けてきた。

ゆるゆるのシャツをだらしなくきて、大きめの麻のボトムスをサスペンダーで止めている。



「ボウラー!ただいま!」

ふたりはまるでドラマのように抱き合って、キスをして再会を喜んだ。

それを僕は、呆然と見つめるしかない。


「それにしてもいつもいつもアコの七変化には驚くぜ。別人だもんな!」

ファータ…否、アコの肩を抱きながら、金髪のマッシュルームははははっと笑う。



―――そう、『アコ』。

あの「テアトロ・ド・ペラ」に住む唯一の女性で、ヒステリックな悲鳴や怒鳴り声を上げてしかも乱暴で、たまに霰もない矯声を通りに響かせているあの、そばかす顔の、「アコ」。








< 38 / 80 >

この作品をシェア

pagetop