テアトロ・ド・ペラの憂鬱
壁紙が剥がれて鉄骨や煉瓦が剥き出しの壁が続く廊下を抜けて、女は深緑の壁紙が暗いリビングに入った。
壁に埋め込まれたランプが点いていたが、芳しくない天候もあり、室内は薄暗い。
まあそれはいつものことなので、女は顔色を変えることなく、中央に置かれたビリヤード台に荷物を置いた。
昨夜遊んだまんまの状態でキューが転がっている。
それを無言で端に寄せ、赤いヒールを鳴らして室内を見渡す。
このアパルトマンはいつも静かだが、今日は全員仕事休み。
しかも昼飯の買い物を頼まれていたわけだから、居る筈なのだが――まあ平気でそれを放置して出掛けるヤツラばかりだけど。
「あ、」
しかし、ひとり見つけた。
壁際に置かれたソファは、向かいのバールが店じまいする際、半ば押しつけるように持ってきたもの。
それに横になって寝こけている大男を赤いヒールが見る。
「ガフィ…ガフィアーノ、昼食、買ってきたよ、」
女はそう言って、ガフィアーノが眠っているソファの脚を蹴り上げた。
その際に赤い絨毯が捲れたが気にしない。
「…おかえり」
叩き起こされたガフィアーノがのっそりと起き上がる。