テアトロ・ド・ペラの憂鬱
おまけ
「あのストーカー、また覗いてるぜー」
ボウラーがエスプレッソを淹れながらアコを見た。
アルデンテをつついていたアコは、口周りをべたべたにさせて顔を上げる。
「…あぁ、向かいのドウテーくん?」
ごくり、と塊を飲み込んだアコは、ちらりと窓の外を一瞥。
向かいに住む黒髪に丸眼鏡の、十七歳くらいの少年が、こちらをこっそり(のつもり)と覗き込んでいた。
「あまり関わるなよ。ありゃあ変わりモンだ」
「ずっと俺達を見てるよね」
パパ役のカーラがシガーを吹かしながら、その隣りで雑誌を見ているガフィがアコに忠告した。
「オメーが下手に絡むから調子乗ってんじゃねーの」
イチゴがびっしり飾られたトルタを口にしながらアコに絡むのはピピ。
「…だって、すんごくこっち見てるから」
セッタにアルデンテにまみれた口を拭いてもらいながら、アコは拗ねた。
そしてそのまま黒髪が見え隠れしている窓に視線を投げる。
ばちりと眼鏡越しに目が合ったのを見計らい、とてもさりげなくセッタの首に腕を回す。
ちら、と見れば、少年は興味津々でこちらを凝視した。