テアトロ・ド・ペラの憂鬱
折り曲げていた長く細い足をぐんと伸ばして、ガフィアーノはご自慢のワニ革靴を見せびらかすように立ち上がった。
さて、呼称が出てきたところで紹介でもしようか。
「ねぇ、ちゃんと買ってきてくれた?」
立ち上がり様、がさがさと乱暴に買い物袋を漁る男。
彼の名はガフィアーノ[Gaffianno]、通称ガフィ。
年齢、出生地は不明だが、国籍はフランスらしい。
極めの細かい金髪は無造作に伸ばされていて、緩くパーマが入ったそれは女性のそれより美しいとかなんとか、自称。
鼻が高くて、ホリが深いから美形に入る。
たまにホモに間違われてるけど、こいつはバイだ。
笑った時の口が異様にでかくて、気持ち悪いなあとテアトロ・ド・ペラの住人は心底から思っている。
「ガフィアーノ、皆はどこに行ったの?」
赤いヒールがビリヤード台に腰かけて、ガフィアーノが漁る紙袋を取り上げた。
短いパンツの隙間からパンティが見えているが、生憎、それを指摘するような男がこの場に居ない――居るには居るが、恐らく今、自室でポルノを見ている。
そんな彼女の紹介は、…まあ、後回しでいいか。