テアトロ・ド・ペラの憂鬱
―――そして、冒頭に戻る。
「で、」
どっしりとソファに腰掛けるピピが、長い沈黙を破りそう口を開いた。
しかしだからといって、停滞した空気が流れるわけではない。
「…なんでないんだよ」
寧ろひび割れた。
ピキキッ、と聞こえる筈もない空気の破れ目が見えた気がする。
三代目のダイヤルテレビの前にソファに座るピピ、その横に距離を置いて座るのはガフィアーノ。
その中央、床に腰かけているのはボウラー。
ボウラーの前に置かれたテーブルには三つのエスプレッソカップ。
微かに酒香が漂うのは、少量のグラッパ(無色透明のブランデー)が垂らしてあるからだろう。
そして彼らの右側、キッチン面には、ロンメル宜しく脚と腕を組んでチェストに浅く腰掛けているアコ。
今夜の彼女ははラテ(牛乳)。
そして彼女の向かい側に腰掛けているのは、セッタとカーラ。
ふたりにはグラッパがそのまま。
普段なら仕切るのはカーラの役目だが、今日はただ静かにソファに腰掛け、目の前のグラッパに視線をくれている。
先に述べたように、誰一人として目の前のドリンクには手を付けていない。