テアトロ・ド・ペラの憂鬱
「デリアス・マーラカーラ、ね。女みたいな名前だよな」
そこでやっと、ピピがグラッパ入りのエスプレッソに手を伸ばした。
冷えきったそれを口にした途端、苦味が舌を刺激したが、今の空気にはぴったりだと思った。
(なんてな。パンティ事件にこんな渋みは要らねぇ)
しかし、アコは真剣そのもの。
右手に鞭を持ったまま腕を組み、暗くなった窓の外をじっと睨み付けた。
「…どうして、彼がパンティを?」
ボウラーが呆然と呟く。
「知るかよ」
ピピにしか聞こえなかった呟きに、彼は短くそう答えるしかできない。
『デリアス・マーラカーラ』
このテアトロ・ド・ペラではお馴染みの名前であった。
お向かいに住む、ストーカー(チェリーボーイ)の名前である。