テアトロ・ド・ペラの憂鬱








「…ん、あ、ピンクキャンデーだ。いつ見ても卑猥だよね、この色。で、なんだっけ?…ああ、ピピは多分、シャワーかな」

ガフィアーノは暢気に袋を漁り、頼んでいたパニーニ(サンドウィッチみたいな)を取り出す。


「…あれ、煙草は?」
「あ、ボウラーが持ってるかも」

最大のお目当てが見つからなかったガフィアーノが袋を覗いたまま赤いヒールを見る。

そんなガフィアーノに答えた彼女の脚を、何者かがぱちん、と叩いた。



「パンティ見えてるよ」

紫の男――否、ポルノ男――じゃない、ボウラーである。

「ガフィ、はい、煙草」

そう言ってガフィに煙草を渡すとと、彼は律義に女のヒールを脱がし始めた。



「俺に脱がして欲しかったわけ?」


彼はボウラー[Boewer]。

年齢は二十代半ばだが、このアパルトマン一の世話焼きだ。

ミルクチョコラータのマッシュスタイルがよく似合う小さく愛らしい顔。

長い前髪にいつも隠れているアイスブルーの瞳は、「ボウラーに見つめられたら、石になるとか不幸になる」とか変な逆ジンクスすらある。





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