テアトロ・ド・ペラの憂鬱
デリアス・マーラカーラは、興奮して荒くなる息を必死で潜めて、床に這いつくばるように身体を低くして、粗末な壁紙にそっと耳を当てていた。
―――マルツォの雨が収まり、本来の太陽が舞い戻ってきたアプリーレ(四月)。
怪人達が棲みつくいている「テアトロ・ド・ペラ」に潜入することは、思った以上に容易であった。
それはデリアスの計画が、緻密に緻密に監視して得た情報と、神経質と言っても過言ではない臆病さで組み立てられたものだったからと言える。
情報(1)
早朝。
普段からそばかす女と一緒に居ることが多い、金貨色のマッシュルームと、長身の緑頭がテアトロ・ド・ペラから出てくる。
ふたりは通りでタクシーを拾い、随分遠い目的地を告げて走り去った。
情報(2)
そして最も注意するき、誰よりも鋭そうな黒髪の男。
彼は、金と緑のふたりが外出してからニ時間後に、彼ら同様、テアトロ・ド・ペラから静かに現れた。
裾の長いブラックのトレンチコートを着こなし、低いヒールがあるブーツで颯爽とあるく様はまるで映画に出てくる俳優だ。
思わず見惚れる。
だからか、途中で見失った。