テアトロ・ド・ペラの憂鬱
「俺はキールの馬鹿に借りがある」
ガフィアーノ。
去年あったフィレンツェでの一件を言っているのだろう――これはまた後日、話すとして。
「…で、どうしてこんなことをしたんだ?」
お喋りな部下のお陰で話が逸れた。
カーラは顔色を買えないまま、立ち尽くすデリアス・マーラカーラにゆっくりと近付く。
デリアスが見たこともないような美丈夫を近距離にして、反応して頬を染めた。
黒い睫毛の美しい瞬きを前に、デリアスは潤んでいた瞳を今度は別の意味で潤ませている。
(…チェリーの癖に素晴らしい反応)
(ありゃあ、天性の両刀だな)
それを見つつ、声を潜めるのはアコとピピ。
異様な六人に囲まれて恐ろしくなった涙と、官能的な涙がつつーとデリアスの頬を伝った。
(泣いたわ……)
(こいつぁすげぇ。天然のエロテロリストだぞ)
そんなふざけた会話をこそこそ続けるアコとピピに、ガフィアーノが咎めるような視線を寄越す。
それにふたりは肩を竦め、カーラとデリアスのやりとりに耳を傾けた。