テアトロ・ド・ペラの憂鬱
(つまり、アコが無理矢理、デリアスを…)
青ざめたボウラーがピピの腕を掴む。
(オイオイ…、マジかよ)
掴まれた腕を払いもせず、寧ろ縋りつきたい気分で、ピピは囁いた。
(―――パ、パ…)
悪魔のようなアコを横目に、ガフィアーノが助けを求めるようにカーラを見た。
が、すぐに見なきゃよかったと後悔することになった。
(おい、パパがアタマ抱えやがる)
カーラの長く節くれ立った手が、彼の端正な鼻筋も瞼も、額も覆い隠していた。
ボソッと呟かれたピピの言葉に、そしてそれを裏付けするカーラの姿に、その場に居たアコとデリアス以外の全員が脚を凍らせた。
「…ぅ、う」
傷付いた青少年の流す滴は美しく、珠玉の連なるような涙は、はたはたと切ない彼を歌うように、床を叩いている。
その日、鮮やかに晴れた夜に降ったのは、デリアス・マーラカーラの涙だけ。
そして、ロンメルの皮を被った女、否、魔女…否、悪魔、アコの高笑いだけだった。