テアトロ・ド・ペラの憂鬱
「テアトロ・ド・ペラ」からだいぶ離れた港近くのバール。
エスプレッソもカフェ・シェケラートもくそ不味いこのバールには、昔からの顔馴染みの客しか寄り付かない。
しかし今日は違った。
細長い店内の一番奥のテーブル。
見慣れない冴えない少年が、そわそわした様子でシェケラートの氷を噛み砕いては不味いシェケラートを啜る、を繰り返していた。
「あのボーヤ、待ち合わせか?」
カウンターに座っていた店の顔馴染みが、見かけない青少年を一瞥した。
「知らねぇよ。あんなボーヤが来たところで、店が華やぐわけでもねえ。どうせ待ち合わせ相手も、野郎か冴えないこどもだろ」
口の悪い主人がグラスを磨きながらそう答えた時、ドアーのベルが品よく店内に響き渡った。
「―――エスプレッソを」
東洋の女神のような黒髪を垂らした美しい女が現れた。
そのままカウンターを通り過ぎ様、不味いエスプレッソをオーダーする。
普段、お目にかかれることなどないような美女を前に、疎らな客を含め、マスターもぽかんと間抜け面を浮かべた。