テアトロ・ド・ペラの憂鬱
「お待たせ」
白いコートに素足のヒール。
脹ら脛が眩しい黒髪の美女は、店内の雰囲気をがらりと変えたことになど興味を示さず、一直線に向かったテーブルの椅子を引いた。
冴えないボーヤがシェケラートを啜っていた、あの奥のテーブルに。
「…こんなとこまで呼び出してごめん。近場だとすぐに足が着くから」
滑らかな手つきで冴えないボーヤの頬を撫で、美女は魂が抜けるような微笑を浮かべた。
真正面からそれを見せつけられた冴えないボーヤ…、もといデリアス・マーラカーラは、顔を土色にしたり青くしたり赤くしたり、今にも気絶しそうである。
「わかる?…わたし、よ。そばかす女のアコ」
そんなデリアスの反応が楽しくて仕方ないというように、黒髪の美女――アコが笑った。
からかうように立ち上がり、彼の隣に移動する。
「あなたがうまい具合に泣いてくれたから、皆を騙せて万々歳よ」
俳優になればいいのに、と、真っ赤な彼の耳朶に息を吹き掛ける距離で囁いた。
そしてその手に、何枚かのリラを握らせると、アコはデリアスに更に擦り寄る。
「これ、報酬。面倒頼んで、ごめんね」