テアトロ・ド・ペラの憂鬱
「……ね、あの「ホラ話」、ほんとにしちゃおっか?」
そして、ふううと甘い呼吸と共にそう囁いてやった。
ついでのサービスで、貧弱な腕に、上げて寄せている胸を押し付ける。
ゾクゾクゾクゥッ。
「ひぃいいいっ」
カターンッ。
途端、パプリカなんて目じゃないほど赤くなったデリアスは、悲鳴を上げて外へ逃げ出してしまった。
カランカランカラランッ。
けたたましく鳴ったドアーの鐘が店内に響くと、美女とボーヤのやりとりを見ていた客達がささっと視線を逸らす。
「ちっ」
憐れなマーラカーラに逃げられた東洋の美女は、舌打ちしながらも満足げである。
「お待たせいたしました。(※)スィニョーラ」
そうしてホテルのカフェ並みに厳かに運ばれてきたエスプレッソを、美しい彼女はゆっくりと口に運んだ。
鮮やかな夜から数日。
暖かな陽射しの、ルネディ マッティーナ(月曜日の朝)の出来事だった。
(※)スィニョーラは既婚女性に対する呼びかけですが、相手が既婚か未婚かわからない場合は、スィニョーラを使ったほうが無難。
[テアトロ・ド・ペラのロンメル]・終