テアトロ・ド・ペラの憂鬱
「セッタぁ?知るかよ」
そうして予想通りのピピの答えを聞き流し、ガフィアーノとボウラーは早々とサンドウィッチとチーズに手を伸ばしている。
「待ってても仕方ないさ。食おうぜ」
と、既にオレンジの蓋を開けているボウラー。
途端、緑のビロードの上に芳しく食欲をそそる香りが漂ってきた。
「んん、今年のオレンジもいい出来だったな」
ガフィアーノがグラスに注がれた香りを嗅いで、感嘆の声を漏らす。
それを皮切りに、ボウラーとピピもビリヤード台に置かれた軽食に手を伸ばしはじめてしまった。
普段、この使い古されたビリヤード台が食卓に変わることは少ないのだが、今は事情があって「食事用の食卓」がないのだから仕方あるまい。
その原因はガフィアーノにあり、ピピにあったのだが、まあそれは追々語ることにしよう。
「つうかセッタの野郎、あいつまた保管庫開けっ放しで出て行きやがって」
厚切りのハムとレタス、ルッコラが挟まれたパニーニ(サンドウィッチ略)に食いつきながら、ぶつくさとグチる。