あなたがいてあなたといて【短編】
トン…トン…
感傷に浸っているとゆっくりと歩み寄る足音が聞こえてきた。
「ねぇ…夏惟?」
「ん?」
それとともに、近づいてくる話し声。
それは、紛れもない夏惟のものだった。
気がつくと近くの茂みに、身を隠し耳を立てていた。
「夏惟…好きな人できた?」
ドクン…
あの女の子の柔らかい声に質問に胸が高まる。
緊張し手のひらにうっすら汗が浮かんでいた。
「好きなやつって…なに言ってんだよ?」
笑ながら冗談っぽく夏惟は言っているけど、女の子は真剣な顔を崩さない。
「じゃあ、夏惟…あたしのこと好き?」
ドクン…ドクン…
女の子の質問にあたしの方が緊張する。
夏惟は、あたしを好きだと言ってくれた。
でも、さっき女の子がした質問に否定はしなかったが肯定もしなかった。