真面目なあたしは悪MANに恋をする
さっき通り過ぎて行った原付バイクが、戻ってくるのが見えた

眩い光がぼろぼろなあたしを照らす

瞼を閉じて、バイクが通り過ぎるのを待つと、バイクのエンジン音はあたしの横で止まった

え?

何?

どうして止まるの

「鈴木さんですよね?」

聞きなれた声が、ヘルメットの中から聞こえてくる

ライトが消えてから、あたしは目を開けると、バイクの乗り手を眺めた

180センチはありそうな長身が、学生服に身を包んで立っている

ブレザーの中に、緩みきったチェックのネクタイが顔をのぞかせている

白のワイシャツも、第一ボタンが外れて、鎖骨が見えていた

「あ…片岡君?」

ヘルメットを取った顔を見て、あたしはバイクから降りた男子の名をあげた

なんで、ここに?

「そっか、バイト?」

「はい、今日は閉店間際にお客が来てしまって…帰るのが遅くなってしまいました」

片岡君が、肩をすくめて苦笑した

片岡君は、あたしと同じとんかつ屋でバイトをしている

あたしより2歳下だけど、バイト歴は長い

キッチン担当で、店長に信頼されており、一人でキッチンを任せられることも多かった

「足、大丈夫ですか?」

片岡君が細長い指で、あたしの足をさした

裸足で立っているあたしに気付いて、引き返してくれたのだろうか?

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