真面目なあたしは悪MANに恋をする
電車の扉が開くと、咽かえるような気持ち悪い空気に包まれた

男性の整髪料やコロン、女性のワックスや香水、それから体臭などさまざまに臭いと、溢れ返った人のもわっとする室内の温度に、ますます電車に乗る気分が下降していく

たいして人は降りないのに、込み合った電車内に、自分の乗る場所を無理やり確保しなければならない

朝から一苦労な仕事だ

のんびり構えて乗ろうとすれば、後ろから押されて転びそうになる

かといって、ぐいぐい車両内に入れば、すでに乗っている人たちに、冷たい目で見られる

『ここは私の場所なの』なんて目で睨まれた日には、心が痛い

でも今日は違った

後ろから押してくる人も、誰かに睨まれることもなかった

片岡君があたしを守るように抱きしめて、乗ってくれたおかげ

車内は気持ち悪い空気のままだけど、片岡君の胸の中に顔があるだけで、その空間は爽やかな場所になる

ワイシャツから香ってくる洗剤の香りが、あたしの鼻を癒してくれた

片岡君の顔を見上げる

まわりの人たちより高い位置に顔のある片岡君は、窓から外を眺めていた
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