真面目なあたしは悪MANに恋をする
「最近だと、つい3週間前かなぁ。電車の中で服を脱がされるかと思ったよ」

「それは怖かったですね」

「怖かった。帰り電車だったんだけどねえ、駅から家まで徒歩10分なのに、その日は30分くらいかかっちゃった」

「そういうときはバイト先に顔を出せばいいのに。店が駅前にあるんですから、気持ちを落ち着けていけばいいんですよ」

「だって営業中に悪いよ」

「鈴木さんの非常事態ですよ? 誰も迷惑だなんて思いませんって。それについでにバイトしてくれると助かるし」

「え?」

「もちろん、ただ働きですけどね。気が紛れますし」

「まあ、そうだねえ」

なんでこんな話を、片岡君と歩きながらしてるんだろう

「片岡君って不思議だねえ」

「はい? そうですか?」

片岡君は、目を少し見開くと首を捻った

「そうだよ。だってさ、痴漢に遭ったって言うと大抵、どうしてその場で『やめて』って言わないんだよ…って言うじゃない?」

男の人なら、なお更だよね

どうして大きな声を出して、助けを求めないの? とか

なんで、痴漢男の手を掴んで警察に突き出さないの? とか

< 16 / 438 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop