真面目なあたしは悪MANに恋をする
「寺島がどういうヤツか…俺、知ってるしさ。産むことを諦めてるなんて言葉を聞けば、ある程度は想像できるよね。誰もさ」

「しょうがないじゃない! 両親に知られるわけにいかないし、どうせ馬鹿なやつって思ってるんでしょ?」

「うん、思ってるよ。だって実際に馬鹿だったんだから、仕方ないんじゃない? 馬鹿な行為だったって気づけただけいいよね? 今日から真面目になれるから」

「…真面目? 私が? 今から? なれるわけないじゃない」

茉莉がぷいっと横を向く

膝の上にあるハンドタオルを握りしめた

「どうしてやる前から諦められるのかな? やってもいないのに、努力もしてないのに…『なれるわけない』じゃなくて、『なる』のが怖いだけでしょ。努力するのが怖い。失敗したときの言い訳がないのが怖い。違う? 言い訳なんて今から考えてどうするのさ。失敗したら、それでいいじゃん。また立ち上がればいい」

「あんたに何がわかるっていうのさ」

「わからないよね。俺は君を知らないから。知りたいとも思わないけど」

「なら、放っておいてよ」

「そうだね。なら、帰ってくれない? 俺、歌いたいから」

俺は、足の上に乗っている検索本に目を落とした

茉莉はすっと立ち上がる、鞄を肩にかけて大股で部屋を出ていった

俺の言葉で、誰かが変わるとは思えないけどさ

自分だけの身体があるだけいいと思わなくちゃ…てか、思ってよね

思ってくれないと困るんだよね

あの子にはわからないさ

自分と同じ顔で、同じ体系したヤツが目の前にいる苦しみ

何をしても、そいつの前に出ることのない自分

いつでも影であり、『自分』がない己がどんなにみじめで居場所がないか

あの子にはわからない

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