真面目なあたしは悪MANに恋をする
「意味は…ないけど」

「古傷があるとか?」

ケンがバイクから降りると、私の手首を掴んで素早く時計を外した

どうして…やめてよ!

「嫌だっ、外さないでよ」

ケンの手の中で男物の時計がぶらぶらと左右に揺れていた

ケンは私の手首を見て「やっぱり」と呟くと、まるでミルフィーユのように何重にも重なっている傷口をなぞった

古くて茶色っぽくなってるものから、真新しい赤くなっている傷口までゆっくりと指先でなぞる

「前にいたんだよね。こうやって傷口を隠す子がさ。リストバンドじゃ、まるわかりだからって、男物の分厚いバンドの時計をしてる女の子がさ」

ケンが腕時計を、ポケットの中に入れてしまう

「ちょ…返してよ」

「嫌だね。こういうことする子、好きじゃないんだよ」

「最初から好きでもないくせに」

「あ、バレてた?」

ケンが笑った

偽りの笑顔

本気で笑ってない

私だって、好きじゃない

仮面をかぶってる男なんて

本心を見せない男なんて、大嫌いだ

「時計、返してよ」

私は、手のひらをケンの前に出す

ケンは首を振ると、バイクに跨った

「後ろ、乗ってよ。チョーの家まで行こう」

私は傷のある手首を、反対の手で撫でてからケンの後ろに座った

「しっかり掴まっててよ」

私って何なんだろう

葉南に謝るだけのために、ここにいて…謝ったら、用のない女になる

私を本気で心配して、声をかけてくれる人なんてどこにもいなくて…葉南のため動いてる人間たちによって、私の行動が決まってるかと思うと

私って何のためにここにいて、何のために呼吸をしてるんだろうって思う

なんで私の心臓は動いているんだろう

< 178 / 438 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop