真面目なあたしは悪MANに恋をする
「帰ってって言ったの。聞こえなかった?」

茉莉の声が低くなる

「…ごめん。帰れない。本当に君を一人にさせたくないんだ。俺を怒ってもいいし、憎んでもいい。だから、俺もこの部屋にいさせてよ」

「意味がわかんない」

「うん。俺も…わかんないんだ。どうしてだろうね」

俺は自然と笑みがこぼれていた

茉莉の手を握ると、リストカットの傷跡が残る手首にキスをした

『ちゅ』と音がした

「もしかしたら俺、『茉莉』を中心にして世界が動いてるのかも」

「約束を破ったくせに」

「そうだね。退院したら、約束を守るよ。駅まで送らせて。二人乗りは無理だから、タクシーか徒歩になるけど」

「じゃあ、歩いて行く」

「ん…わかった」

俺は茉莉と見つめ合うと、ぎゅっと手を握りしめ合った

「どうしてバイクから落ちたの?」

茉莉が『ん』と、表情を曇らせた

「正直に言っていいの?」

「嘘をつかれても困るんだけど」

「『ああ、結局みんな、葉南しか見てないんだ』って思ったから。貴方もケンも、頭にあるのは、私が葉南に謝ることだけ。謝らせるために尤もらしい正論を並べ立てて、私の気持ちを動かしただけだったんだって。『君は君しかいないんだよ…この世にさ。だから君自身が、君を守らないでどうするの?』って言われたときはすごく嬉しかった。そっか…私はもっと自分を大切にしていいんだって思えたのに。勝手にケンとバトンタッチして帰ってるし。なんだよ…って思ってたら、ケンが『どこ行くの』って急に不機嫌になって。謝りに行くって言ったら、すごい嬉しそうな顔をして『良かった』なんて言うし。誰も私の気持ちなんて理解してないんだ…って思った。結局、葉南に謝るだけのためにケンに告白されて、ここまで連れられてきて、葉南に謝ったら私はもうこの人たちとったら用済みの人間なんだって考えてたら、私が呼吸している意味も、心臓が動いている意味さえも皆無に感じた。私と必要としている人がいないなら、生きている意味ってなんだろうって考えてたら、自然と手が離れてた」

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