真面目なあたしは悪MANに恋をする
「ああ、どうしてあんな奴を好きになっちゃったんだろう」

萌香ちゃんが残念そうにつぶやいた

「え?」

「だってさ。見るからに、気分屋って感じじゃん。店にいるときは、良い顔で話してくれるけど、それ以外だと冷たくて、見向きもしてくれない。そういうギャップに惚れちゃったんだろうけど、でもやっぱ好きな人には優しくしてもらいたいよ」

萌香ちゃんが、制服のスカーフを整えながら口を尖らせた

そっか…私、マサに優しくしてもらいたいだけなんだ

好きだから、マサに優しく接してもらいたいんだ

優しく抱きしめてもらいたい

あのときの病院みたいに…

私は時計のバンドで隠れているリストカットの部分を眺めた

赤い女モノの時計

マサがバイト代で買ってプレゼントしてくれたものだった

デザイン製が重視されているバンドの太い時計

きっとあちこち探して見つけてくれたんだろうなあ

手首の傷跡を隠せるような時計を、忙しい時間をやりくりして見つけてくれたんだと思う

「あ、先生、ごめんねえ。買い物中にひっぱりまわして!」

萌香ちゃんが両手を叩いて、謝る

私は笑顔で、首を横に振った

「ううん。こちらこそ。大切な気持ちを気付かせてもらったよ」

「大切? あ、それってもしかして首の後ろにあるキスマークをつけた人のこと?」

「え?」

私は首の後ろを手で押さえると、顔が熱くなるのがわかった

キスマークって?

今朝の出来事を思い出す

確か、マサに少し長めのキスをされてた

そのときの?

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