真面目なあたしは悪MANに恋をする
身体を売ることに、罪悪感はない

金のない生活に戻るほうが怖い

母の小さい背中を見て、気兼ねなんてしたくない

可哀想だろ

好きな男に、逃げられて、家を押し付けられた女の背中なんて見ているだけで、苦しくなる

昔は美人であっただろう母の顔を見るのが辛い

いいんだ、俺が稼げるなら、俺がやればいい話しなんだから

それなのに、母は体調を崩すのを繰り返しながら今も靴屋を続けている

白くなった頭を気にすることもなく、シミの増えた肌を隠すこともなく…ただ靴屋を営業を続けて、俺の学費を稼ごうとしている

そんなことをしなくても俺は一人で生きていけてるのに

「あ…あれ?」

北見の間抜けな声が聞こえてきて、俺ははっと意識が戻る

横になっている北見を見ると、俺はにっこりと笑った

「おはよ」

俺の言葉に、北見がとび跳ねるように身体を起こした

「え? あれ? どうして?」

状況の飲み込めていない北見が、きょろきょろと室内を見渡した

「仕事、首になったみたいだよ」

「あ…そっか。今回もダメだったんだ」

北見が苦笑すると、額を手で押さえた

「私、お酒に弱くて。お客さんと1杯飲んだだけで、もうクラクラしちゃうんだよね。それに楽しい会話とかできないし、触られるのも苦手で」

北見は乾いた笑い声をたてながら、悲しい瞳をした

「なら、なんであんな仕事してるの?」

「…うん」

北見が言いづらそうに、口を閉じた

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