真面目なあたしは悪MANに恋をする
「ここのアパートを追い出されたくないんだ。ここが格安だったんだけど…困ったなぁ」

北見が「えへへ」と目に涙をためて、微笑んだ

「金がないんだ」

「まあ、そういうことかな。こんな姿、透理君に見られちゃうなんて格好悪いなあ。もう恥ずかしくて」

北見が手で顔を仰いだ

「別に何とも思ってないから」

俺は興味なさそうに呟いた

実際、本当に興味がないし

「そうだよねえ。いくら高3で同じクラスだったからって、関係ないもんね」

北見が笑って目が細くなると、ぽろっと涙が流れおちた

「お父さんが自殺しちゃって…事業が失敗したらしいんだけど。全然知らなかったから、驚いた。卒業式が終わって、家に帰ってきたらお父さんが首を吊ってた。お母さんは…お父さんが死ぬ前に男と出てってた。二人とも仕事で卒業式に出られないって言ってたのに」

北見が膝を抱えて身体を小さく丸めると、静かに泣きだした

俺は壁に背中を寄り掛かったまま、カーテンのついてない窓を眺めた

真っ暗な闇が見える

北見の心もきっとこの窓から見えるような真っ暗な闇なのだろう

「ごめっ。気にしないで。忘れちゃっていいから! 明日からまた職探ししないとだね」

北見が目を真っ赤にして笑った

まるで俺の母親のようだ

辛いのに、我慢をする

そういうの好きじゃないんだ

俺は北見から視線を外すと、布団の角に目をやった

< 350 / 438 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop