真面目なあたしは悪MANに恋をする
-ケンケンside-

「ずいぶんとお早いお帰りだよねえ…てか、遅いお帰りっていうのかな?」

なんでも屋の事務所にいるマサが二階にあがろうとしている俺の背中に言葉を投げかけてきた

「終電に乗り遅れたから。バイトの先輩の部屋に泊まらせてもらったっす」

俺はマサにここっと笑った

マサは椅子を立ち上がると、俺に近づいてヒクヒクと鼻を動かした

「女の先輩、優しかった?」

「は?」

「男が薔薇の匂いをさせてないよね? これって女性の香水。女性って薔薇の匂いを好きだよね。ケンケンも進化したねえ。マンガ喫茶じゃなくて、女の家に泊まるなんて」

マサが嬉しそうに笑った

「泊まっていけば?って言われたから、泊まっただけ」

「ふうん」

「なんだよ。先輩はベッドで寝て、俺は居間のソファで寝たよ」

「ふうん」

「だからその疑う目はなんだってば」

「べっつにぃ。ケンケンが女の家に泊まるってこと自体が珍しくて、驚いているだけ」

マサはにやりと微笑むと、俺の肩を叩いて事務所に戻って行った

なんだよ、そんなに珍しいかよ

別に、普通だろ

今までだって……って、あれ?

ないかも

俺、女の家に泊まったことってないや

遊びで抱いても、必ずチョーの家に帰ってきてた

終電を逃しても、マンガ喫茶とかカフェ喫茶とかカラオケで、時間をつぶしてた

長時間、女と過ごすなんて真理以来、初めてかもしれないな

真理でも一晩一緒に過ごしてない

親の目もあったし、長時間は無理だった

リンが初めてだ

長時間一緒にいても、まったく苦痛を感じなかった女って、リンが初めて

やっぱ、好きになるよ…てか、もう好きなのかもしれないな
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