真面目なあたしは悪MANに恋をする
「ずいぶんと早い帰りだね」

自分の部屋に入ろうとする俺の背後から、チョーの明るい声が聞こえてきた

「チョーまで、マサと同じことを言わないでくださいよ!」

俺は苦笑して、後ろを振り返った

「良い匂いだね」

「あ……終電を逃して、バイトの先輩の家に泊まらせてもらっただけですから」

「そう、良かったね」

チョーがにっこりと笑った

「だから、何もなかったっすよ!」

「僕は何も言ってないよ」

「あ…そうっすよね。なんかその笑みの裏に隠れてる思惑が怖い」

「なにも考えてないよ。ただ、きっと良い女の先輩だったんだろうなあって。ケンが思わず帰るのを忘れちゃうくらい」

「やっぱ考えてるじゃないっすか」

あははとチョーが明るい声で笑った

「僕はこれからバイトに行くから。最近、青族のトップが代わったらしいよ。暴れるのが好きで、人が集まるところに姿を現しては、誰から構わず暴力をふるうらしいから」

チョーが、俺の顔を見てうなずいた

「調べておくよ」

「頼むよ。そろそろ僕も後任を見つけないとだよね。大学生になってもまだ族長ってわけにはいかないし」

チョーが肩をすくめてから、階段に足を進めた

「青族のトップね。青は血の気の多いヤツが多いから、好きじゃないんだよねえ」

俺は後頭部をぼりぼりと掻きながら、自室に入った

ドアに背をつけると、「ふう」っと息を吐いた

真理とも茉莉とも違う感情が、リンを見ていると感じられる

もっと傍にいたかった

ケンは自分の掌をじっと見つめた

そういえば…茉莉とも長時間一緒に居たな

あれは、真理にできなかったことをしたかっただけだった

もっと一緒に居たいと泣きついていた真理の夢を、叶えてあげたかった

ただの罪滅ぼしにしか過ぎない

一緒にいても「好き」って感情は生まれなかった

ただ、真理の死んだ事実を消したかっただけだったのかもしれない

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