真面目なあたしは悪MANに恋をする
「ま、とりあえず中に入りましょ! 外は寒いから…ね」

マサ君に手を掴まれると、ぐいぐいと店内に引っ張られていく

広めのテーブル席には、靴直しの透理さんがぼけぇーっと外を眺めながら、コーヒーを啜っていた

「あ…来た」

透理さんがあたしに気がつくと、席を立って頭を下げた

「『来た』じゃないよ、もうっ! ケンケンが箸を振りまわしながら、寒い外で引きとめてたんだよ」

マサ君が、透理さんの向い側のソファに座るように勧めてくれる

あたしはペコっと頭を上げると、クリーム色のソファに腰を落ち着けた

あたしが座るのを見てから、透理さんとマサ君が並んで座った

透理さんは綺麗にカッティングしてある顎髭を、じょりっと指で確かめてから、こくんと頷く

あたしはそれにつられて、頭を上下に振った

「うん、何から話そうかな」

「え? 何も考えてないのかよっ」

透理さんのぼそっと吐き出した言葉に、マサ君が驚いた声をあげた

「『俺に任せてよ』って言ったのは透理さんっすよ」

「まあ、そうなんだけど…いろいろ考えているうつに、何をどう話したらいいのか、わからなくなっちゃって」

透理さんはにこっと笑うと、小首をかしげた

温和な笑みで、おもわず透理さんをとりまく時間だけが、スローモーションになったように感じる
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