†君、男~Memory.. limit of grief~
「もう8時か…」
携帯のディスプレイで確認する。
優介の腕を振り払い、
走って家に帰って来てからはずっと寝ていた恵。
下から母親の声が聞こえてきていた。
体を起こし降りようとするが、
目が腫れている事に気づく。
…泣いていたのか。
「ごめん、夜はいらない。
疲れたから今日はもう寝る」
そう階段から顔を出していい、
再び部屋に戻っていく。
そして別途に深く蹲った。
私は…あの日の夢を見たんだな…。
私が裏切ったあの日。
優兄が私に別れを告げた日。
私の知っている優兄はいないと言った。
孤独の寂しさを憎しみに変えてしまったのは
私なのだろうか…。
優兄は私という存在が
見えなくなっていたのか?
「……違う」
スーっと一粒の涙が流れる。
私が恐れていた事。
それは優兄が消えてしまう怖さ、
そして私を見くれる人がいなくなるという不安だった。
どうして今になって気づいたんだ。
本当は全部私が悪いんじゃないか。
優兄は何も変わっていなかった。
私が…私が変わってしまっていたんだ。