†君、男~Memory.. limit of grief~


崩れてはいけない。
ここで崩れたら、また…


「もう諦めると決めたんだ。
 だからもう関係ない」


「だっ駄目だよ」


震えた口調で燐は
恵の袖を掴む。


「言ってること矛盾してるかもしれないけど、
 諦めたら駄目…」


「本当に矛盾してるな。
 さっきは先生に恋するのは
 駄目だとか言っていたんじゃないのか?」


さすがに呆れた恵。
はぁ…とため息をついて燐の手を離した。


「何を理由に駄目だと言う」


「…だって6年間も好きだったんでしょ?
 そんなの簡単に忘れるとか
 絶対に出来ない!」


「もう無理だって分かってる。
 逃れることが出来ない罪から
 解放されないってことぐらい…
 けど、せめて想う気持ちを忘れることが
 出来たならば、私は少しだけでも
 解放されるんだ。
 だから――…」


「そんなの間違ってる!!」


声を張り上げて燐は叫んだ。


「分かってないのはレインの方だよ!
 自分のこと何も分かってない!
 好きなんでしょ?無理に忘れることは
 絶対に出来ないもんだよ?
 今でもレインは佐伯先生のことが
 好きなんだから…」


「…!」


「ずっと想ってきた気持ち、
 簡単に壊しちゃいけない」


「…だったらどうしろと言うんだ!
 優兄に言われた…私のこの想い、
 本当は偽りなんじゃないかって。
 私自身そう思い始めてきた。
 弱い自分を隠すために好きだったんじゃないかって。
 …それでも、私は…私を
 裏切りたくはなかった」



「6年間想ってきたことが
 もし偽りだったら…私は最悪な人間だ。
 これ以上罪を重ねるなんて出来ない。
 だからこそ真実が分かる前に
 諦めようとしてるんだ!!」


全て言い終わった後、
少し息切れした恵は
深く呼吸する。


燐はその様子を見て
恵を抱きしめた。

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