†君、男~Memory.. limit of grief~
居心地がよくて、
ずっといたい場所。
私はその場所から今、
空を見上げている。
「…桜が舞ってる」
「風で流されてるんだな…
ここは桜の木が多いから余計
それが見える」
「ふーん…そう」
屋上に入ってきてから恵は
寝転がって空を見上げていた。
夕方の空はとても美しく、
その上桜が舞っているともなれば
とても風流なものだった。
「何か怒ってんだろ?」
「…どうして?」
「変…だから?」
言った後で首をかしげ
自分でも納得いかない説明だったが
何とかやり過ごす。
「そーだね」と珍しく否定ではない返しだった。
さすがの優介も、え?と驚く。
「最近の私、変なんだ」
いつしか願う。この空のように…
私も、この青の中に溶け込めたら、
どんなに幸せだろうか…。
「苦しくて…手が届かない」
左手を空に向かって伸ばし、
散っている桜を手にする。
すぐに桜は風で飛ばされてしまった。
あ…と言って起き上がり、
目の前に映る優介の姿が光る。
まるで桜が優介を取り囲むように
美しく舞っていた。
「簡単だな、その答え」
「え?」
「ヤキモチだ」
「 」
優介は恵に向かって笑って指を指した。
恵の表情がゆがむ。
「優兄は、そう思うのか?」
「そうだな―…。
相手は北瀬ってとこだろ」
ビクッと条件反射で体が揺れ、
優介はクスクス笑う。
「安心しろ、あんなのには
興味ないから。
あんなんって言うのは失礼か…」
「それは、生徒だから…?」
「…そうかもな」少し低くなった声。
恵は手を握り締め、「私もか?」と訊いた。