†君、男~Memory.. limit of grief~



「…」


あまりにも万里の情報量が少ない。



誰よりも人を観察する力があり、
それは動体視力として生かされる。


情報に関しては『天才』と密かに言われている
あの万里が、あれだけしか
集められないわけがない…。



「蒼井さん?」


「     」


校舎に入ろうとした恵を
呼び止めた柔らかい声。
今、恵が最も会いたくない人物、北瀬麻耶だ。


「蒼井さんと1対1で喋るなんて
 初めてですよねー。
 何か緊張しますよ」


手を合わせて飛び跳ねる。
しかしすぐに何かを狙った表情に変わった。


「…冷静沈着クール美女。
 学年トップな上に生徒会長。
 完璧なんて憧れですよね」


「何がいいたい」


「私はただ憧れてるだけですけど?
 同じ学年にこんなにも凄い人がいるから。
 でも、人は誰でも欠点が一つぐらい…
 あるものですよね?」


「…」


麻耶は恵の横に立ち、
真正面を向く。


「蒼井さんの場合、
 恋愛が不得意と見る」


「…その点、北瀬さんは
 その問題はない…という事か?」


「ん―…恋はしてきますよ。
 だって、自分を成長させる役目でもあるし」


人差し指を口元に当て、
上目遣いで恵を見る。


「蒼井さんは、誰かを
 本気で好きになったことありますか?」


「…言ってどうする」


「気になるの。
 どんな人に告白されても
 決してOKを出さない…。
 もったいないなーと思って」




「いざ本当に好きな人が出来たとき…
 もう、遅いかもしれませんね」


「      」



ニヤッと笑って麻耶は歩き出す。
恵は立ち尽くし、歯をかみ締めていた。



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