†君、男~Memory.. limit of grief~
「佐伯先生ー!」
ものすごい音で扉が開き、
顔を覗き込ませたのは麻耶だ。
優介がいることを確認するやいなや
手招きをする。
「ちょっとお話があるんですけどー」
いつものように可愛らしい声。
燐にとっては気に食わないもので、
顔が引きつっていた。
優介は一息ついて
麻耶と生徒会室から出て行った。
燐は気になって仕方がないが
人の話を立ち聞きするのは嫌だったため
歯を食いしばりながら待つことにした。
「で、話って何だ?」
「んー…ココで言うのもなんなんですけど…
あまり蒼井さんに近づかない方が
いいんじゃないんですか?」
人差し指を口に当て、
後ろを振り向きながら言う。
「あまり関わりもつと
先生自身苦しむじゃないですか。
私の方がいいのに」
「北瀬…お前何が―――」
優介はその場で固まってしまう。
今までに見たことのない麻耶の真剣な表情。
背筋が凍るほどの目つきだった。
優介に近づいて小さな声で言う。
「 」
「と、言うわけですよ」
「お前何でそれを…!」
ニヤっと笑って「内緒です」と
いつもの口調で言う。
麻耶はそのまま駈けて行った。
上から恵が見ていたことも
知らずに―――…
「何の話してんだろーね、あの二人」
教室の窓から二人の会話を見ていた恵。
話は聞こえてはいなかったが、
恵の頭の中は聞こえてなくても混乱していた。
――二人が近づいているように気がする…
あんまり当たりたくないものだ。