†君、男~Memory.. limit of grief~


「めぐちゃーん!」


後ろから聞こえた万里の声。
急いで走ってきていたため
恵のもとにやってきた頃には
息を荒くして「待って」と手で合図を送る。


「めぐちゃんに伝えたいことがあって」


「私に?」


「あの北瀬麻耶って子の事なんだけど、
 今まであの子がいろんな男子と
 付き合ってたのには理由があるみたいで…
 誰かの情報を得ようとしてるみたい」


「―――…それって、
 佐伯先生とか?
 最近よく近くにいるし」


「うん…その可能性は高いと思う」


恵は黙り、歩き始めた。
万里はそれについて行く。



突然口を開いた恵「最近、胸騒ぎがするんだ」


「え?」


「人を好きになるほど苦しんで…
 居場所が限られてきている。
 叶わないと分かっていても
 少しの光の可能性を信じて
 この場所で頑張りたいと思ってた。
 でも、最近はその気持ちでさえ
 人に遮られてきてる…」


「恋は、何だって不安だよ。
 私も好きな人がいた時は
 本当に辛かった。
 何で私の気持ち分かってくれないんだろうって…。
 いつかしかそんな気持ちも消えてた」


「…万里も?」


店の前まできた二人は立ち止まる。
万里は悲しそうな目で恵の目を見た。


「めぐちゃんなら大丈夫。
 私よりも…ずっと」


「…どこにそんな根拠が?」


「根拠は、ない…。だけど、
 私より辛い思いしてると思うから。
 燐ちゃんまではいかないけど
 私だって少しぐらいめぐちゃんの事分かるよ。
 …ううん、分かりたい」


「分かったところで
 良い事なんてなにもない。
 私は罪は抜け出せないから」


「そんなことないよ」


万里は恵の制服を掴む。


「めぐちゃんのこと何も知らない
 私が言うのもなんだけど…
 罪って試練って思わない?」


「      」


目を丸くする恵。
「ある人も…」と呟き、
ん?と万里は首を傾げて
顔を覗き込む。

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