†君、男~Memory.. limit of grief~
「 」
フワッと揺れる髪。風になびく。
いつの間にか辺りは恵の歌を聴く
人だかりが出来ていた。
慎は冷や汗をかいていた。
ぞくっと背筋が凍るような…。
「よくそんな凄い歌
作れるな…」
「そうでもない…」
振り返ろうとしたその足を止め、
恵は何処かへ行ってしまった。
たった今思いついた曲。
私なら『過去』と名づけるだろう。
消える事がないんだ。この過去は…。
ずっと私の中に住むついて、
離れてはくれない。
昔のまま時が止まってくれたら…
私は私でいれたかもしれない。
何を言っている。
私が私でいる?
その前に私などいない。
心のない私が恋をしたのは、
私を見つけてくれたから。
今まで抜け殻だった私に
光を与えてくれたのならば
私はその人を裏切るなんてこと
するわけないのに――――…
何であの日…
裏切ったのだろう。