†君、男~Memory.. limit of grief~
恐る恐る電話にでる。
紛れもなく優介の声が聞こえてきた。


「お前今まで何処いたんだよ。
 全然電話でねーから…」


「…北海道にいた」


「は?」


冗談だろ?と疑うのも無理はない。
いきなり北海道などと言われても
ピンとこないだろう。


恵は携帯を握り締めて言う。


「ずっと電源切ってたから…。
 今持ってる気持ち忘れて
 新たに作ろうと思ったから…」


だんだん声が震えだしてきていた。
ポタポタと目から落ちてくる涙。鼻をすする音が
優介にはハッキリと聞こえた。


恵は話を続ける。


「けど無理だった…。
 何処にいても優兄が頭から離れない。
 嫌いな夕日は、いつも私を見てくる。
 分かんない…何もかも」


「それは…夕日がお前に言ってんだよ。
 “一人じゃない”ってな。
 どんなに憎んでも夕日は
 裏切ったりしねーよ…」


「      」


恵の前に手が差し伸べられる。
ゆっくり顔を上げその手にそって見ると…



「優兄―――…」


息を切らした優介が
携帯を耳に当てた状態で恵の前に立っていた。


「どう…して…」


「ったく、いくら電話してもでねーし、
 繋がったと思えば泣いてるし」


「    」


優介は恵を抱きしめる。
その瞬間、ポツ…と雨が降り出してきた。


「夕日を見て…また私
 綺麗って言ってた」


「少しは夕日、好きになっただろ?」


「―――…うん」



涙も雨も降り止まない――…


それは嬉しいから…。



少しだけ、夕日と雨を
好きになったような気がした――――





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