†君、男~Memory.. limit of grief~



「あっ燐、今年の文化祭なんだが…!」


声をかけた恵は言うのを止める。
燐の隣に麻耶がいたからだ。


「あっ蒼井さん! 
 久しぶりだね」


いつ以来だろうか、
馴れ馴れしく話してくる麻耶に
恵は顔をしかめる。


そんな事など気にせず
麻耶は話し始めた。


「最近佐伯先生と話してます?
 あっ生徒会があるから
 話してるか。羨ましいなー」


淡々と嫌味を言う麻耶。
恵の表情は強張った。
横で見ていた燐もいつしか
麻耶を睨んでいた。


「それでも不満とか?」


得意の笑顔で言った発言は
恵を一瞬にして豹変させた。


「お前、何が言いたい」


麻耶はニヤリと微笑み
恵の横に立って妙な声色で言う。


「燐ちゃんに秘密は
 駄目なんじゃないの?」


「―――…」


フフと鼻で笑い麻耶は歩き出した。
残された二人の間に
重い空気が流れる。


「レイン…私気にしてないよ。
 誰だって人には言えない事ぐらいあるから」


「…言えないんじゃない。
 燐達が私の秘密を知れば、
 私はきっと今のように冷静にはいられない」


目を逸らし恵は窓から空を見る。
とても冷たい目だった。


「これだけはハッキリ言える事がある。
 私が人や何かに対して憎む気持ちが
 消える事は後にも先にもない」


「      」


全身が固まってるようだ。
指一つ動かない。



これは恐怖―――…?



心が震えてる。
 



レインが一人遠くに行ってしまう、
そんな気がした―――…




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