†君、男~Memory.. limit of grief~



大広間に連れてこられた恵。
そこで精一は待っていた。


「まさか恵の方から
 私たちに会いに来てくれるとはね…ありがとう」


「礼など聞きたくない。
 私は全てを確かめに来ただけだ。
 あの女に会わせてほしい」


鋭い視線を精一に向ける。
しかし精一は寂しげな表情を浮かべ、


「レインに会う前に
 私の話しを聞いてもらいたい」


「…」


恵は黙ったまま顔を背ける。
精一は今までの事を話し始めた。



「私たちが結婚する前、
 お母さんの苗字は柳本(やなもと)。
 その時大手企業の社長だったのが
 レインの祖父、柳本充一郎だったんだ。
 一度は聞いたことないか?」


「…海外でも一目を置かれていた人物。
 めったに表には出ないが、
 その存在はとても大きいもの…」


「あぁ…。けれど当時の私は
 普通の会社で働く身だった。
 無論、結婚は断られた」


「でも、私が生まれたんだ」


恵の発言に精一は驚く。
言いかけた言葉を止め、あぁと頷く。


精一は再び話し始めた。


「私たちに子供が出来たと知った
 充一郎さんはかなり怒ってね、
 一般人の子供など必要ないとハッキリ言ったよ。
 無理やり施設へと連れて行かれた…」


精一の手を握る力が強くなっていく。
だんだん表情も険しくなっていた。


「その行為があまりにも残酷で…
 怒る言葉すら出なかった。
 私たちは家を出て、必死で頑張ったんだ。
 認められるようにね…。
 やっと結婚を許してもらえたのは
 家を出て3年後の話だった。
 私が勤めていた会社が大手にまで上り詰めて、
 私がそれを指揮する役目に回った時だ」


手を握る力を弱める。
肩の力を抜いた。


「認められてすぐに私たちは
 恵を引き取りに行こうとした。
 けれどその時にはもう恵は
 別の人に引き取られていた…」


「それが、今の親ってこと…?」


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