†君、男~Memory.. limit of grief~




“レイン!そうしろよ、
 蒼井に会うと思うけどな。
 俺はそう呼ぶ”


“レイン?”


“そう!…それにその名前は
 お前の母親の名前だからな”


“私を捨てた人の名前?”


“捨ててなんかない!
 必ず会いに来てくれる。
 だって、お前の事を誰よりも
 考えてくれてる人だからな――”



優兄が私につけてくれた名前。
私は今でも手放すことなく持っていた。


それは何処かで母親が会いに来てくれると、
信じていたからかもしれない…。



「恵…私たちと
 一緒に暮らせないからしら?」


恵を離す。
しかし恵は浮かない表情だ。


「ごめん…今の私には無理だ。
 けど、たまに会いに来てもいいかな?」


レインの表情を伺いながら言うと
レインは優しく微笑み
再び恵を抱きしめていた。




「会いに来てくれてありがとう」


帰る間際、門のところで
精一と恵は並んでいた。
辺りはすっかり真っ暗だ。


「私も何かスッキリした。
 …私の事調べてた人って
 北瀬麻耶って子だよね?優兄に聞いた」


精一の方を見て恵は言う。
精一は軽く頷いて答えた。


「そうだよ。優介君にはレインが昏睡状態という事と、
 麻耶ちゃんの事を言っていたからね」


「そう…。じゃぁ、私はそろそろ帰るから」


1歩前に出た恵。
精一は恵を呼び止めた。


「恵を手放した後、
 私たちは本当に恵を心配していた。
 でも…強く生きてるようだな」


恵は振り返ることなく
ポケットからゴムを取り出し髪を一つにくくる。


くくり終わった後、恵は振り返り言う。


「強くしてなきゃ駄目だから」


恵は歩き出す。
その後姿はとても凛々しいものだった。




夜明けの私はきっと今日より
強くなってる―――…


罪を償った時、私は真実を知った。


罰の間知ることが出来なかった、大切な事を…。



それを乗り越えた今なら、
私は前に進める。



今よりももっと貴方に近づける、
そんな気がした――――





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