†君、男~Memory.. limit of grief~



「…さて、どうしよう」


今まさに恵は悩んでいた。
何も言わず優介の家から飛び出してきた恵。
携帯のデスプレィを見ると
時刻は8時を回っていた。


母親とずっと喋っていた恵が
宮原家を出たのは7時前。
それ以降これからどうしようか
公園のベンチに座って悩んでいたのだ。


「このまま帰らないわけにもいかないし…」


優介からのメールは何件もきていた。
多分、電源を切っている間に
電話もかかってきていただろうことが予想される。


恵は立ち上がり
公園を出ようとした矢先、
後ろから「レイン」と呼ぶ声が聞こえてきた。


「優兄―――…」


優介は呼吸を乱し、
家を出た時と同じ服装。
そのまま出て来て探していたのが分かる姿だった。
恵に近づき怒鳴り始めた。


「お前今まで何処行ってた!
 家に帰れば部屋は蛻の殻、
 しかもまた電話つながらねーし…!」


優介は全てを言い終わる前に
恵を抱きしめる。
恵の耳元では息を切らした声が聞こえていた。


「北海道に行ってた時のように
 今持ってる気持ち忘れたくて
 どっか行ってたのか?」


「…違う。会いに行ってた。
 あの人達のところに…」


「そうか」


優介はそれ以上何も言わなかった。
恵の様子から全て解決した事を
察知したのだろう。


「なぁ…頼むから急に
 俺の前から消えるな」


「え…?」


恵は顔を上げる。
夜空は星が輝いていた。
ふいに優介は恵の耳元で囁いた。


「      」


優介は恵を離し、腕を掴む。


「ほら、早く帰るぞ」


「あっ…うん」


少し顔が赤い恵。
片方の手を胸に当て、
鼓動の速さを感じ取っていた。



< 260 / 482 >

この作品をシェア

pagetop