†君、男~Memory.. limit of grief~


“俺の場合、寂しさの気持ちは
 憎しみに変わりそうだ”


その言葉の意味は私が離れていく寂しさが、
自分に対する憎しみに変わったと言う事だった。


優兄は私から離れる事を選んだ。
時間には勝てなくて…。



それが自分の寂しさから
憎しみへの移り変わり?



本当にそう言えるの――…?



ガチャ。


扉が開く音が聞こえ、
恵はとっさに目を瞑る。
足音がだんだん近づいてきていた。


椅子に座った優介は
恵の方を向いて口を開いた。


「起きてたら聞いててほしいんだ」


少し悲しげな口調。
何かをためらうかのように。
優介は外に眼を向け話し始めた。


「あの雨の日、ほんの一瞬
 俺の気持ちが崩れた時、
 俺はレインを裏切った。
 あの時ちゃんと向き合っていれば
 もっとお前は笑えてただろうな…。
 レインが水那に来た時は正直言って
 どう接していけばいいか分からなかった。
 でも普通に話すお前の姿を見て
 安心した部分があったんだ」


恵の頭の中で過去のことが甦る。
あの雨の日、叫んだあの時が…。


「本当は違うかったって気づいた時には
 もう遅くて…突き放す事しか
 考えれなかった。
 そうすればレインが悲しい思いを
 することもなくなると思ったからだ。
 でも…大きな間違いだった。
 それはただレインをさらに悲しませるだけで、
 俺はまた…同じ過ちを繰り返してた」



「レイン…突き放しても
 俺を何度も探してくてありがとう」


そう言い切って優介は立ち上がり
部屋を出て行った。


暗い部屋に横たわる恵の目からは
涙が溢れていた。


「…ッ」


歯を噛み締め体を丸めた。



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