†君、男~Memory.. limit of grief~
疲れた…。


「こういうとこは苦手か?」


「!?」


バッと振り返ると
いつの間にか後ろには
車椅子に座った老人がいた。


恵は恐る恐る訊く。


「柳本…充一郎さん?」


「そうだ。…まさかひまごの顔を見るまで
 生きているとわね」


ゆっくりと恵の方に向かってくる充一郎。
恵は全身凍った。
その存在だけで押されたからだ。


息を呑み、恵は再び訊く。


「私の事…憎んでますか?
 生まれてきた事…」


「憎む?…そうか、
 君からそればそう見える。
 私のした行為は償いきれないものだ。
 しかし、憎んだことなど1度もないよ。本当だ」


充一郎は恵の方に車椅子を向けた。
鋭い視線が突き刺さる。


「私はもう長くない。だから、
 孫の娘に…会えた事が何よりも嬉しいんだ。
 恵…と言ったな?」


「はい…」


十分に動かない手を必死で上げ、
恵の手を掴んだ。


「本当にすまなかった。死んでも死にきれんさ。
 本当は恵をずっと育ててきてくれた
 蒼井家にお礼を言いに行きたかったが
 この体だ…。どうすることもできまい。
 ただ最後にどうしても伝えたい事がある」


だんだん充一郎の呼吸が
絶え絶えになってきていた。
片方の手で胸を掴む。


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