†君、男~Memory.. limit of grief~
「君、最近よく来てくれるよね」
「え?」
ボーっと立っていた恵は
突然ボーカルの男の人に話しかけられる。
恵はこの1週間、ほぼ毎日
このストリートライブに来ていた。
さすがに顔を覚えられていたようだ。
「今日はもう帰ろうと思ってるんだけど、
また今度来た時一緒に歌ってみる?」
「…いえ、結構です」
恵は逃げるように駈けて行った。
その後ろでは残念そうに肩を落としていた。
悲しくなった時に、それを
癒してくれる歌は世の中にはたくさんある。
けど…私にはそんな物無意味なだけ。
余計自分が惨めになって
悲しむだけだから。
「――…レイン?」
後姿ではあったが、
恵の姿を優介は見かけていた。
いつもの悲しい顔ではなく
辛そうな表情をして歩いている姿を。