†君、男~Memory.. limit of grief~



「今日は生徒会活動もないし、
 早く帰って寝ようかなー」


「そうだね…」


「それとも何処か寄る?」


「…」


「レイン?」


頬杖をついてボーっとしている恵。
燐の話など聞いていなかった。
頬を膨らまし燐はめげずに話し出した。


「そう言えば最近、
 南橋の駅(恵達が降りる駅)でさ
 ストリートライブやってるんだけど
 見に行ってみない?私まだ
 1回しか見てなくてさ、それも
 ちょっとしか聴いてなかったから」


「…それ、soul/って名前の?」


「レイン知ってるの?」


歌を嫌ってる恵がその人たちの
名前を知っていることが不思議だった燐。
けれど恵がその人たちを
知っていると分かり、嬉しそうに「じゃぁさ…」と
言うと同時に「行かない」と冷たい言葉が出てきた。


二人はそれから会話を交わすことなく
授業は始った。


放課後、ストリートライブを見に行く事を
諦めかけていた燐だったが
やはりどうしても見たかったのか、
恵を無理やりそこに連れて行こうとする。


「一人で行けばいいだろ!」


「そんなの駄目!
 レインが歌を嫌いなのは知ってるけどさ
 いつまでも逃げてたら駄目だよ!」


「―――…」


弱いんだ。私。
けど、それを隠してるの。
簡単に崩れる心を必死で保とうとしてるだけ。


怖いから…


ほんの少しだけ信じる勇気が
私は本当に少ししかなくて…


求めてるものは、全てを知らなきゃ
きっと分からないものなのに、


分かった時に月を見ることが怖い。


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