†君、男~Memory.. limit of grief~
「早く帰らないと」
時計を見て少し駆け足になる。
こんな時間に帰れば
心配をかけるかもしれないと思ったからだ。
角を曲がったところで恵は
誰かとぶつかってその反動で後ろに倒れてしまう。
暗闇で誰か分からないまま
恵は腕を引っ張られ持ち上げられた。
「こんな時間まで何してた」
「 優兄?」
この声は優介だ。
月明かりがハッキリとそれを教えてくれた。
「駅で歌ってただろ?」
「!…聴いてたんだ」
明らかに怒っている顔。
鋭い目線が突き刺さった。
「あの歌詞、レインが考えたのか?」
「…うん」
「そうか…ごめん」
そう言って優介は手を離す。
顔を逸らした。
「優…兄…?」
何か様子がおかしい。そう思った恵は
優介の服の袖を掴む。
が、すぐに振り解かれてしまった。
「あ…」自分のやったことに後悔する優介。
「ごめん…気をつけて帰れよ」
「優…ッ!」
どうして…?
私、今まで歌ってきた
「罪」も「For fear of frail」も「過去」も
「幼い頃の夢」も…今日歌った歌も
全て貴方を思って歌ってた…
今までこんな感情生まれなかった。
貴方を探すのでもなく、
呼んでるのでもなく…
追いかけてる――――