†君、男~Memory.. limit of grief~



「打ち上げだー!
 やったね、私2年連続」


ブイサインをして飛び跳ねる燐。


体育祭も終了し、体育館に集まった
3位までのクラス。
気分が最高潮に達していた燐は
恵がいない事に気づいていなかった。




電灯の明かりに照らされた中庭。
一人ベンチに体育座りで座っている恵がいた。
そこに一つの影が現れる。


「打ち上げ、また参加しないつもりか?」


「…優兄…」


「こんなとこで何してんの?
 …今日実也が言ってた事
 気にしてないから」


「うん…」


今まで泣いてたかのような目の潤み。
その目に優介は顔をしかめた。


「何で私、“今”いるんだろ…」


「え―――…?」


「今じゃなくて、もっと遅く…
 もっと早く生まれてきてたら、
 優兄にも会わなかったよね…?」


「…それは、俺と会わない方が
 良かったって言ってるのか?」


「…」



実也の言葉は嫌い。


私の心を揺れ動かして
優兄から遠ざけるから。


けど、実也の言葉は全て正しい。


でもその言葉を私は否定する。
だから…壊れていく。
全ては自分のせい。私一人の責任。



だけど実也―――…


私はこんなにも愛しいと想える人が出来たの。


人と接する事を避けていた私が
変わった…変われたと思う自分がいる。



ただ一つだけ、今目の前にいる人が
最初からいなければ…
私は、今より何かを得ていただろうか?


――多分、今より得ていない。
何も知らずに生きていただろう。



“今”の私はたとえ壊れそうなモノでも
譲れないものがたった一つある。


今いる理由が分かった。



「違う。今いるからこそ…
 ココにいることが出来るの。
 優兄を見る事が出来て、話す事が出来る。
 今ココにいなきゃ駄目なの…ッ」


「      」



罪を口にした夜から
私の寂しさはきっと会いたさに変わっていた。


貴方だけは放せないよ…




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