†君、男~Memory.. limit of grief~

「レインさ、先生のお見舞い行ったら?」


「え?」


1時間目が終わり休み時間。
窓側で燐は恵にある提案をしていた。
テスト前で生徒会もない今、
お見舞いに行くチャンスだと燐は言っているのだ。


「明日テストだぞ?」


眉間にしわを寄せ言う恵だが
そんな言葉さらりと跳ね返されてしまう。


「大丈夫大丈夫!
 明日はレインの得意な科目じゃん。
 先生が風邪なんてめったにない事だし、
 お見舞い来てくれたら喜ぶと思うなー」


「……はぁ」


恵はまんまと口車に乗せられてしまった。
授業を終えた恵は燐に背中を押され
「頑張れー」と、半ば楽しそうに見送られる。


こうなったら仕方ないと諦めた恵は
見舞品を買って優介の家に向かっていた。


「レインちゃん…?」


突然話しかけられた恵。
しかしどこかで見たことがある人だった。


「あっ…イブの日に会った―」


「そうそう!優介の友達の巴月ね。
 今帰り?」


「いや、まぁ…そうなんですけど、
 優兄のお見舞いに行こうと思ってて」


目をパチクリさせた巴月。
「馬路で!?」と叫ぶ。


「そう言えば巴月さん、
 優兄から私の事聞いてたって言ってましたよね?
 何を聞いたんですか?」


「あぁ、あの時の事?」


唐突な質問に巴月はしんみりとなる。
言葉を詰まらせながら答えた。


「優介ってさ、昔からあまり人には
 弱いとこ見せないたちだったんだよ。
 まぁ俺は優介と一緒にいたから
 たまに話聞くこともあったけど…」


話が止まる。巴月は次の言葉を
言いづらさそうにしていた。


「何なんですか?
 聞くこともあったけど…って」


「…たった一度だけあいつ、
 泣いてた事があるんだ」


「      」


優兄が泣いた――…?


信じられない。


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