†君、男~Memory.. limit of grief~
目の前に映っているものを
信じることが出来なくて、
花火の音でさえ
耳に入ってこなかった。
あの時確かに優兄は
見知らぬ女性と並んでいた。
優兄が花火大会に来ていた驚きと、
“彼女”かもしれない存在がいたことに
私は目を疑った。
けど、それは無い話でもなかった。
優兄はもう25歳。
私とは10歳も離れている。
そう言った人がいてもおかしくないもの…。
それでも心が痛むのは
その光景が辛いから?
「レイン?さっきから俯いてるけど
本当に大丈夫?」
「ごめん、大丈夫だから。
朱音…今日はありがと。
私、先に帰るね」
恵は朱音達と目をあわすことなく
走り去っていってしまった。